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宇宙が膨張していると考える根拠は、ハッブルの法則と宇宙の一様性でした。つまり、宇宙のどこででもハッブルの法則が成り立つとするならば、空間そのものが膨張していると考えることが自然である、ということでした。 この一様性は、地球から見てもっともらしいというだけでなく、最近の精密な宇宙背景放射の観測もそれを支持しています。つまり、どの方向からやってくる電波を観測しても、「ムラ」がほとんど無くて全て同じ温度(約絶対2.7度)の電波であると。 この非常に高精度な一様性は、一見、宇宙のシンプルさを表しているようですが、次のような問題を含んでいます。 |
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また、地球上の私たちから見て、東の方から来る電波と西の方から来る電波の温度が互いに一致しています。このことはよく考えると非常に奇妙なことです。どうして奇妙であるかを説明するために、まず因果律と地平線についてお話ししましょう。 「因果律」とは原因と結果の間に成り立つ規則ですが、普通は「時間的に、原因は結果の前にある」、ということです。(当たり前ですね!) 相対性理論によると、真空中でもっとも速いものは光(=電磁波)です。光は1秒で約30万キロメートル進みますから、観測者から30万キロメートル離れたところで起こる現象が、その観測者に影響を与えることはできるのは、早くとも1秒後です。このことを図で表すと下の図のようになります。 非相対論では、観測者にとって過去に起こったことは、どんなに離れたところで起ころうと観測者に影響を与えられます。無限大の速度を許しているからです。従って、観測者に影響を与えることができる現象は黄色の領域内で起こったことです。 ところが相対論では、光より速いものは無いわけですから、観測者に影響を与えることができる事象は図のように、光と同じかそれより遅いものが影響を与えられる範囲に限られます。(ピンクの領域) 例えば、図のBという時刻(Aの0.5秒後)にAと同じ場所で起こったことが観測者に影響するとしたら、光速の2倍の速さが必要になります。また、Aと同じ時刻にCで起こったことも、観測者から見るとAより遠いところにあるので、影響を与えるには光速より速い速度が必要です。従って、BやCで起こった出来事は観測者に影響を与えることができない、つまり因果的に関係のないことになります。
観測者の側から見ると、0.5秒前のBで起こったことや、1秒前のCで起こったことを知ることができません。つまり、1秒前では、観測者の場所から30万キロメートル以内が「見ることのできる限界」なのです。 この「見ることのできる限界」は、地平線という言葉を連想させます。しかし、これは1秒前の"地平線"です。2秒前にはその2倍の距離の所にあるでしょう。宇宙が始まって以来、因果的に関係がついていた領域の限界を単に「地平線」と呼びます。宇宙が始まった頃は、光速度x宇宙年齢 程度の所にあることになります。ところが、計算はこれほど単純ではありません。宇宙は膨張していることを思い出して下さい。しかも、膨張する速度(ハッブル定数)は時間とともに変化してきました。宇宙の膨張を考慮に入れた計算をすると、放射優勢や物質優勢の宇宙では となります。正確には少しだけ定数(放射優勢の方が少しだけ大きい)が掛かりますが、1と余り変わらないので省略します。 これまで現在のハッブル定数については触れましたが、ハッブル定数が時間とともにどう変化してきたかについては述べていません。上の地平線の式が成り立つときには、ハッブル定数は宇宙が始まってからの時間に反比例しています。 地平線が時間とともにどのように変わってきたかをもう少し詳しく見ましょう。
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