宇宙の物質の起源

 

 

 

物質の起源


物質と反物質

第3章でお話ししたように物質は(今のところ)究極にはクォーク、レプトン(電子)から出来ています。そしてこれらの素粒子には必ず反粒子が存在します。

光子、グルーオン、Zボソン(ウィークボソンの一種)、ヒッグス粒子のように、たまたまその反粒子と自分自身が同じ素粒子もあります。

そして第4章で見たように、宇宙が非常に高温のときにはその温度をエネルギーに換算した程度のエネルギーを持った光子が沢山います。例えばその温度がトップ・クォークの質量をE=mc2によりエネルギーに換算すると約175GeVです。宇宙の温度が高くて、これ以上のエネルギーを持った光子が沢山いれば、

という対消滅

という対生成が頻繁に起こっていて釣り合っています。
温度が175GeVより低くなると、トップと反トップ・クォークを対生成できるだけのエネルギーを持った光子がいなくなって、上の対消滅だけが起こります。
このようなことはトップと反トップ・クォーク以外の粒子と反粒子のペアについて起こりますが、その粒子の質量によって対消滅だけが起こって、対生成が起こらなくなる温度が違います。最後に約3億度まで冷えたところで電子と陽電子(=電子の反粒子)の対生成が起こらなくなります。

もし対消滅が終わる前に粒子と反粒子の数が全く同じだったとすると、すべて対消滅して光子になってしまい、星や銀河、私たちの体も出来なかったでしょう。ところが私たちは存在しています。
つまり私たち自身が対消滅が完全に起こらなかったことの証拠なのです。

したがって現在の宇宙が出来上がるためには、対消滅が終わる前に

1.

粒子と反粒子の個数に差があった

2.

粒子と反粒子が出会わないように分けられた

のどちらかが起こっているはずです。そして現在の宇宙の姿を説明するには、単に「起こった」だけでなく「どのように起こったか」が大切なのです。

残された粒子の密度が少なすぎても多すぎても現在の宇宙の姿にはならないでしょう。また、2番目の立場だと、いつ、どの程度の大きさで粒子と反粒子の集団が分離されたのか、という条件も調べなくてはなりません。

当然、現在の宇宙を観測することにより、この粒子の密度に関する情報が得られます。次の節で観測事実から課せられる条件を見ましょう。