宇宙の物質の起源

 

 

 

ビッグバン宇宙論


基本ルール

宇宙は時間をさかのぼると非常に高温・高密度であったことは前に述べました。
このような状態では物質はその構成要素にバラバラにされているのですが、私たちはクォークやレプトンで記述されるミクロの世界の物理学(=素粒子の標準模型)は知っていますので、クォークやレプトンがいる程度の温度では何が起こったかはこの理論から予測できるはずです。
加速器実験などで、この標準模型が正しいことは確かめられています。実験では小数の粒子のエネルギーは確かに宇宙初期の状態のように高エネルギーに出来ますが、宇宙のようにほとんどすべての粒子を同時に高エネルギーにすることは未だ出来てきません。つまり、宇宙のごく初期を実験室で再現できるわけではないのです。

そもそも「温度」というのは、前に述べましたように、元気の良い粒子の割合、で決まりますから、1個や2個しかなければ温度という意味がありません。多数の粒子がいてそれら全体がある平均的な性質を持つときに初めて温度が意味を持ちます。(そのような状態を物理学では平衡状態と言います。)

ところが、ミクロな世界の粒子の物理学に平衡状態を記述する統計力学を適用すると、理論的に高温状態で何が起こったかを知ることが出来ます。場合によっては平衡状態でないときも理論的予言が可能です。

宇宙が冷えていく途中、様々な温度で何が起こったかをみていく前に、幾つかの基本的なことがらをまとめておきましょう。

1.

すべての粒子の反応の前後で、エネルギーは保存される。

2.

すべての粒子の反応の前後で、電荷は保存される。

3.

宇宙の膨張の仕方はフリードマンの式により、宇宙のエネルギー密度とその形態で決まっている。膨張するに従ってエネルギー密度は減少する。

4.

宇宙の膨張速度よりも粒子の反応速度が速いときにはその反応は平衡になる。

逆だと粒子全体が同じ温度になろうとする前に宇宙の膨張により「温度」が次々に変わってしまい一定の温度にはならない。

5.

電磁相互作用が平衡にあるとき、その温度で決まったエネルギーを持つ光子がたくさんいる。
そのエネルギーの半分より小さな質量(エネルギーに換算して)を持つ粒子と反粒子が対生成される。
より冷えれば、その質量の粒子・反粒子は対消滅しても粒子の対生成は起こらない。

以上のことを頭に置いて、宇宙が冷えていく途中で何が起こったのかを見ていきましょう。

宇宙の年表で見たように、宇宙の温度によって時代を区切りますが、じつはこの温度(絶対温度)がエネルギーとある関係で結ばれていることを注意しておきます。
温度にボルツマン定数という数を掛けると、温度がエネルギーの単位になります。例えば次の表のようになります。

温度
エネルギー
1度
8.6 x 10-5 eV
1万度
0.86 eV およそ 1 eV
1億度
およそ1000 eV = 10 keV
1兆度
およそ 105 keV = 100 MeV
1000兆度
およそ 105 MeV = 100 GeV

例えば1兆度の温度ではおよそ100MeVのエネルギーを持った光子がわんさかいます。そうするとこの半分の50MeV程度の質量を持つ粒子はその反粒子と頻繁に対生成と対消滅をしていますが、それより重い粒子はその反粒子と出会って対消滅するだけで、どんどん数が減っていきます。

この温度に相当するエネルギーがその温度での宇宙の構成要素を決めているのです。