宇宙の物質の起源

 

 

 

 

素粒子の標準模型

現在「素」であると考えられている粒子をまとめると次の表のようになります。

第1世代
第2世代
第3世代
電荷
クォーク
u(アップ)
c(チャーム)
t(トップ)
+2/3
d(ダウン)
s(ストレンジ)
b(ボトム)
-1/3
レプトン
電子型ニュートリノ
ミュー型ニュートリノ
タウ型ニュートリノ
0
電子
ミュー粒子
タウ粒子
-1

小   ?   質量   ?   大

これらは同じような粒子の組から出来ていて、それぞれを「世代」と言います。
そしてこれらの粒子の間にはたらく力(相互作用)は強い順に次のようになります。

感じる粒子
伝える粒子
強い相互作用

クォーク

グルーオン

電磁相互作用

電荷を持つ粒子

光子(フォトン)

弱い相互作用

すべてのクォーク、レプトン、ヒッグス粒子

ウィーク・ボソン

重力相互作用

すべての粒子

重力子(グラビトン)

重力は地球や太陽のような天体くらいの重いものだと強いのですが、素粒子のような軽いミクロの対象には非常に弱くて普通は無視できます。

この表にはまだ説明していない粒子がありますのでそれらについて簡単に述べましょう。

ウィーク・ボソンは陽子の約80〜90倍の質量を持つ粒子で、前に述べた中性子の崩壊を起こす力を伝える粒子です。

中性子の崩壊をクォークで見ると、中性子の中の1つのdクォークがウィークボソンを放出してuクォークに変わり、ウィークボソンは直ちに電子と反ニュートリノに崩壊します。
ウィークボソンはあまりにも重いのであっという間に他の粒子に崩壊してしまいます。

実はウィーク・ボソンには2種類あります。1つはWボソンという電子と同じ電荷を持つ粒子、もう1つはZボソンという電荷を持たない粒子です。dクォークがuクォークに変化するときには電荷が+1だけ変わりますから、そのときには-1の電荷を持つWボソンを出します。

ヒッグス粒子は、物質を作ったり力を伝えたりするのではなく、空間を満たしていて様々な粒子に質量を与えています。
クォークや電荷を持ったレプトン、ウィークボソンはこの粒子がなければ質量を持つことは無かったでしょう。その意味では
物質の質量の起源であるとも言えます。
ヒッグス粒子は陽子の質量の約110倍以上の質量を持つと実験から決められていますが、未だ発見されていません。
近い将来、非常に高エネルギーの加速器実験でその存在や質量が明らかにされると期待されています。
2012年CERNのLHC加速器衝突実験において、陽子の約133倍の質量の「ヒッグス粒子らしい」粒子の存在が示唆され、2013年にそのスピンが0であることを確かめて「ヒッグス粒子である」と発表されました。

またすべての粒子には反粒子が存在します。一部の粒子(光子、グルーオン、ヒッグス粒子)にはその反粒子自身と同じものもあります。
反粒子は現在、自然界にはほとんど存在しないのですが(存在している方を「粒子」とよんでいます)、高エネルギーの光子からペアで生成されたり、粒子と反粒子が出会うとペアで消滅したりします。

宇宙の初期で熱いときにはエネルギーの高い電磁波(=光子)で満たされていたので、このような反応が頻繁に起こっていたと考えられます。

重力を除く3つの相互作用はゲージ場の量子論という枠組みで統一的に理解できることが分かりました。その枠組みに基づいた素粒子の理論を

素粒子の標準模型

といいます。これはウィークボソンの質量を予言し、その値通りの粒子が1983年に発見されました。その他にも弱い相互作用について様々な予言をし実験で確認されています。
例えば弱い相互作用では「ウィークボソンを出して粒子の種類が変わる」と上で述べましたが、正確に言うと、粒子の種類が変わるのはWボソンを出すときだけで、
Zボソンを出すときには粒子の種類が変わらないことが標準模型から予言されます。
現在のところ、最も成功し完成された素粒子の理論がこの標準模型です。

標準模型は当初は素粒子の様々な現象を説明する1つの「模型」とされていましたが、現在ではほとんどの現象を説明できるので「標準理論」と呼ばれています。(英語ではThe Standard Modelですが。)
上記のヒッグス粒子の発見によって、最も単純な標準理論(最小標準理論)に含まれる粒子はすべて出そろいました。ただ、ヒッグス粒子は1つでなければならないという理由は無いので、発見されたヒッグス粒子が最小標準理論のものであるのか、それとも拡張された理論が持つヒッグス粒子の一部であるのかはこれから決着をつけなければなりません。また、ニュートリノ質量や後述するダークマターの存在が確かめられた現在、最小標準理論を拡張しなければならないことも認識されています。

今後、LHCや将来の加速器実験によりヒッグス粒子の正体が明らかにされることで、真の標準理論は何なのかがはっきりするでしょう。ヒッグス粒子の発見によって私たちは素粒子物理の新たな局面に入ったといえます。
本講座「宇宙の物質の起源」は素粒子物理と宇宙論の境界領域についての解説ですので、素粒子の標準理論についての詳しい解説は別の講座にて公開する予定です。
 

しかし素粒子の標準模型ですべての謎が解決されたわけではありません。例えば、

  • どうして世代は3なのか? 
  • クォークやレプトンの質量はどうやって決まっているのか? 
  • どうして相互作用には3種類あって、それぞれ力の大きさが違うのか? 
  • 重力まで統一的に理解できないか?

などなど。これらの問題を解決しようとする理論的試みは多数ありますが、ここではこれ以上立ち入らずに、この後は実験的に確立された標準模型に基づいてビッグバン宇宙論を見ていくことにしましょう。