宇宙の物質の起源

 

 

 

1000兆度から1兆度まで

この時代は素粒子の標準模型で記述されます。
弱い相互作用は「弱い」といいながら、粒子の密度が大きく、粒子が高速で運動しているために反応の回数が大きくてすべての粒子が平衡状態にあります。

また、前にクォークは単独で取り出せないといいましたが、高温・高密度状態ではグルーオンの手が切れて、ハドロンの中ではなくクォークがバラバラで運動しています。(クォーク・グルーオンプラズマ)


約1000兆度(100GeV)で劇的な変化が起こります。
これより高い温度ではクォーク、レプトン、ウィークボソンはすべて光子のように質量が無かったのですが、この温度より冷えるとこれらの粒子が質量を持ちます。この劇的変化のことを

電弱相転移

と言います。

高温相

質量のない光子、クォーク、レプトン、ウィークボソン、グルーオンと質量のあるヒッグス粒子とそれらの反粒子

1000兆度
電弱相転移
低温相

光子、ニュートリノ、グルーオン、(質量のある)クォーク、荷電レプトン、ウィークボソン、ヒッグス粒子とそれらの反粒子

相転移とは、ミクロには同じ法則に従っていても状態が突然変わることです。
例えば、水は摂氏100度以上では気体(水蒸気)ですが、100度以下では液体の水に変わります。このとき分子としてはH2Oという水分子なのですが、圧力や分子の密度は劇的に変わります
電弱相転移については、素粒子はすべて標準模型で記述されているのですが、1000兆度を境にヒッグス粒子の状態が変わるためにそれと相互作用する粒子のほとんどが質量を持ってしまいます。

電弱相転移後もウィークボソンはまだたくさんいたのですが、1兆度に冷える前までには重いウィークボソンとその反粒子は対消滅や崩壊してしまって、いなくなっています。

1兆度より少し高い温度で、クォークや反クォークはグルーオンが伝える力で集まって陽子・中性子といったバリオンとパイ中間子などのメソンを作ります。
この温度より冷えると、クォークを単独で取り出せなくなります。これも1つの相転移で、クォーク・ハドロン相転移といわれています。

高温相

光子、グルーオンクォーク、レプトンとそれらの反粒子、質量のあるヒッグス粒子

約1兆度
クォーク・ハドロン相転移
低温相

光子、ハドロン(バリオン、メソン)、レプトンとそれらの反粒子、ヒッグス粒子


このように電弱相転移とクォーク・ハドロン相転移の起こる温度は桁が違います。
これは弱い相互作用の特徴的なエネルギー(ウィークボソンの質量程度)が100GeVであるのに対して、量子色力学の特徴的なエネルギーが100MeVであるからです。前にお話しした「物質の階層性」と同じように相互作用の間にも階層性があります。


この温度(約100MeV)では陽子・中性子(質量は約1000MeV)の対生成は不可能なので、陽子・中性子の反粒子は急速に減っていきます。
反陽子・反中性子が対消滅で消えた後に陽子や中性子が残ったと考えられます。もしこれらが残らないとすると、宇宙には物質、従って私たちも出来なかったでしょう。

このバリオン(陽子・中性子)と反バリオンの差が何時、どのようにして出来たかは非常に重要な宇宙論の問題です。これについては次の章でお話しします。