宇宙の物質の起源

 

 

 

バリオン数の起源

前に述べましたように現在の宇宙の姿を説明するには核子と反核子の対消滅が終わる前に

1.

粒子と反粒子の個数に差があった

2.

粒子と反粒子が出会わないように分けられた

のどちらかでなければなりません。もっと正確に言うと、1.の場合にはバリオン数が光子数の100億分の2程度、2.の場合にはバリオンが「濃い領域」と「薄い領域」分けられてそれぞれでバリオン数が光子数の100億分の2程度、反バリオン数が100億分の2程度なければなりません。そして私たちはたまたま「濃い領域」にいると考えます。

1.の立場にはさらに、

宇宙が始まるときに神様が用意した
初めはバリオン数は無かったが冷えていく過程で出来た

という2つの考え方があります。
「神様は宇宙を作るくらいだから、100億分の1の精度でバリオン数を用意するくらいは簡単なことさ」と言ってしまえばそこで物理は止まってしまいます。(物理屋さんは失業する??)
物理屋さんは、100億分の1という値が余りにも小さいので、

「元は0で冷えていく途中で何かのからくりによって生じた」

と考えます。そしてこの「からくり」が素粒子を記述する自然法則の中にあるはずだ、とも思います。
このようにバリオン数が0(つまりクォークの数と反クォークの数が全く同じ)という状態から0でないバリオン数を作ることを

バリオン数生成

といいます。


一方、2.の立場は「バリオン数分離」とでも言えるでしょう。
現在、銀河やそれが集まってできた銀河団の中で物質と反物質の対消滅による高エネルギーの光子(ガンマ線)は観測されていません。従ってこれらの天体の集団は物質または反物質だけから出来ていると考えられます。
ところが銀河団は太陽質量の1兆倍から100兆倍の質量があります。これだけの質量を分けることが出来るのでしょうか?

バリオン数分離により宇宙のバリオン数を説明するには、分離が起こったときの宇宙がある程度温度が高くなければなりません。温度が低いほど対消滅が進行して核子と反核子の個数と光子数の割合はずっと小さくなるからです。

例えば温度が(エネルギーに換算して)38 MeVのとき、


となります。

この温度で「何らかの作用」がはたらいて完全に核子と反核子を分離できたとしても太陽質量の1000万分の1程度しか集められません。この時期に因果的に関係のついている領域に入っている全エネルギーがこの程度なのです。

相対論によると光より速く伝わるものは存在しません。従ってある時期に宇宙で互いに影響を与え合うことの出来る領域の大きさは決まっています。この領域の限界のことを「地平線」といいます。実はこの地平線の大きさはハッブル定数の逆数程度であることが計算で示されます。「何らかの作用」がこの因果律を満たしている限り、この地平線より大きい領域のエネルギーをかき集めることは出来ないのです。
そしてその時期の温度が分かれば宇宙の平均密度が分かりますので、地平線の内側にある全エネルギーを知ることが出来るのです。


従って、38 MeVより高い温度で、核子と反核子のそれぞれの密度が大きいときに巧妙に分離して、それぞれの領域でのバリオン数と反バリオン数を100億分の1の精度で出さなければなりません。

現在でもバリオン数分離の様々なアイデアが提案されていてすべてが否定されたわけではありませんし、中には宇宙論の他の問題とも関連していて興味深いものもあります。
しかし以下ではバリオン数生成についてお話しいたします。