宇宙の物質の起源

 

 

 

原子核を作っている力

原子から分子を作っている力、そして電子と原子核から原子を作っている力は電磁気力でしたが、陽子や中性子から原子核を作っている力は何なのでしょう?

プラスの電荷を持った幾つかの陽子には反発する電磁気力がはたらくので、電磁気力では原子核を作ることは出来ません。そのような陽子が原子よりもずっと小さな場所に押し込められているわけですから、明らかに原子核を作っている力は電磁気力よりも桁外れに強いはずです。

原子の組み替えが起こる化学反応でエネルギーが出し入れされるように、原子核の組み替えの際にもエネルギーが出入りしますが、その桁が大きいことは想像できるでしょう。
このエネルギーを利用したのが原子力発電です。

原子核反応の例

核融合

太陽などの恒星の中

核分裂

原子炉

ここでのエネルギーの単位はメガ電子ボルト(MeV)1MeVは100万eVのことです。
化学反応に比べてこれだけ桁外れにエネルギーが大きいので、化学反応と原子核反応の間には階層があると言えます。

宇宙の初めに関係あるのは核融合です。原子番号の大きい元素は重い星の中で作られ、初めは宇宙に存在していなかったからです。
このほかにも炭素、酸素、窒素なども星の核融合で作られます。

上の核融合の例の1つ目では反応の前後で陽子の個数と中性子の個数は同じ(ともに2個ずつ)ですが、2番目の例では2つの陽子が中性子に化けています。その代わりに陽電子というプラスの電荷を持った電子(実は電子の反粒子)が出てきて反応の前後で電荷は保存されています。このように粒子が化ける反応もあり得ますが、これに関する詳しい話はすぐ後で述べます。

陽子と中性子はともに原子核の材料ですので核子とも呼ばれます。
では核子を結びつけて原子核を作っている力の正体は何なのでしょうか?

場の量子論という物理学によると、核子やこの後の説明する素粒子の世界では粒子の間の力(相互作用)は、相互作用する2つの粒子が別の粒子を交換することで伝えられるという描像が成り立ちます。

核子を結びつけている力を核力とよびますが、原子を結びつけている電磁気力と比較してみましょう。

電磁気力
核力
力を感じる粒子
電荷を持つ粒子
核子
力を伝える粒子
光子(フォトン)
パイ中間子
力の届く範囲
無限大
(遠くになるほど弱くなる)
約10-13cm
(原子核の大きさ程度)

核力の性質を詳しく調べることで、湯川秀樹は核子と電子の中間程度の質量を持った中間子の存在とその質量を予言していました。その後、予言通りの質量のパイ中間子が発見され湯川はノーベル物理学賞を受賞しました。

宇宙のさらに温度が高いときには核子もバラバラにされるのでしょうか?
この問題に答える前に核子についてもう少し詳しく説明しておきます。比較のためにこれまで出てきたパイ中間子や電子の性質もまとめて表にしましょう。

陽子
中性子
中性パイ中間子
荷電パイ中間子
電子
質量
938.272 MeV
939.565 MeV
134.977 MeV
139.570 MeV
0.511 MeV
電荷
+1
0
0
+1 または -1
- 1
核力
有り
有り
有り
有り
無し
寿命
1032年以上
887秒
8.4 x 10-17
2.6 x 10-8
無限大(?)

この表に現れる単位について説明します。
質量を表すのにエネルギーの単位(MeV)を用いていますが、これはアインシュタインの公式

E=mc2

を使って質量(m)に光速(c)の自乗を掛けてエネルギーに換算してあります。素粒子などの質量を表すときによく使われます。
電荷の単位は
電子の電荷を-1としています。

粒子の寿命についてですが、幾つかの粒子は放っておくと別のより軽い粒子に崩壊します。電子は今のところ安定であると考えられていて、陽子はその寿命を測定する実験がされていますが、未だ崩壊が発見されていないので「何年以上」という下限があるだけです。

中性子は原子核の中にいるときは安定なのですが、単独でいると900秒ほどで

という過程で3つの粒子に崩壊します。ここで反ニュートリノという粒子が初めて出てきましたが、これはニュートリノという電荷を持たない、核力がはたらかない、ほとんど質量を持たない粒子の反粒子です。
原子核の中ではこの反応の「逆」、陽子が中性子と陽電子(電子の反粒子)とニュートリノに変わる反応が起こります。
これが前に挙げた核融合の2つ目の例で起こっていることです。

この中性子の崩壊には核力がはたらかない電子やニュートリノが関与しているので、核力とは異なる力によって引き起こされています。その力のことを
弱い相互作用といいます。名前の通り非常に弱い力で電磁気力よりもずっと弱い力です。上の表で中性パイ中間子と荷電パイ中間子の寿命が桁外れに違うのは、中性パイ中間子が電磁気力によって壊れるのに対して、荷電パイ中間子は弱い相互作用で壊れるからです。力が弱いほど崩壊は起こりにくいのです。

単独でいる陽子(つまり水素原子核)が短い時間で崩壊するならば、私たちの体をはじめ様々な物質は安定に存在できないでしょう。

では核子のさらに先へ進みましょう。