宇宙の物質の起源

 

 

 

核子を作っているもの

これまで電子、光子、核子(陽子、中性子)、パイ中間子、ニュートリノといった粒子が出てきました。
これらの粒子が発見された当初はすべて「素」粒子、つまりそれらを作っているさらに小さな粒子は無い、と考えられていました。

1960年代の初めまでに核子やパイ中間子の仲間が次々と発見されました。また電子の仲間も発見され下の表のように分類されました。

ハドロン
バリオン

核子、デルタ粒子、ラムダ粒子、シグマ粒子、グザイ粒子、等々

メソン

パイ中間子、K中間子、イータ中間子、ロー中間子、オメガ中間子、等々

レプトン
荷電レプトン

電子、ミュー粒子、タウ粒子

ニュートリノ

電子型ニュートリノ、ミュー型ニュートリノ、タウ型ニュートリノ

ここでハドロンというのは核力を感じる粒子の総称で、粒子が持っているスピンという量が1/2の奇数倍(1/2とか3/2)のものをバリオン、1/2の偶数倍(0, 1, 2 等)のものをメソンと言います。

レプトンというのは核力を感じない粒子、つまり電磁気力と弱い相互作用しか感じない粒子で、電荷を持たない粒子(弱い相互作用しかしない粒子)をニュートリノとよびます。いずれもスピンは1/2です。
ニュートリノは他の粒子と弱い相互作用しかしないのでほとんどの物質を通り抜けてしまいます。現在でも宇宙から、また高層大気中からニュートリノがやってくるのですが、ほとんどが私たちのからだだけでなく地球でさえもすり抜けてしまいます。

ハドロン族には表に書ききれないほどの粒子が見つかり、それほど多くの「素」粒子があるのだろうかという疑問を感じます。バリオン、メソンともに粒子の中には質量がある程度近い仲間に分類され、さらにある規則性があることが分かってきました。それを元にハドロン族の粒子はすべて3種類のクォークとよばれる粒子から作られていると考えられました。それら3つのクォークには u(アップ)d(ダウン)s(ストレンジ)という名前が付けられました。

u クォーク
d クォーク
s クォーク
電荷
+2/3
-1/3
-1/3
質量
1〜5 MeV
3〜9 MeV
75〜170 MeV
スピン
1/2
1/2
1/2

この表を見て奇妙に感じられると思いますが、質量は確定していません。後で述べるようにクォーク単独の質量を測定できないのです。他の粒子との相互作用を通して間接的にこれらの値が分かっています。

これらのクォークが幾つか集まってハドロン族の粒子を作っています。つまりハドロンは「素」粒子ではないのです。
クォークがどのようにくっついてハドロンを作るかはクォークが従っている法則で決まります。

クォークの力学

クォーク同士をくっつけている力(相互作用)は何なのでしょうか?

電磁気力は粒子の電荷を感じて、光子によって伝えられるように、実はそれぞれのクォークには「色」という電荷のようなもの(色荷とでもいいましょうか)があり、それを伝えるグルーオンという粒子があります。
クォークは光の波長(10-5cm程度)よりずっと小さい(大きさが無い)ので私たちが感じる色彩を持っているわけではなくて、単に電荷のようにそれを区別する量があるだけです。電荷のようにプラス幾つとかマイナス幾らという量ではなくて3種類の値しかとることが出来ないので、それを「赤」「青」「緑」と光の3原色と同じ名前を付けたのです。
各クォークにはそれと反対の色を持った反クォークが存在します。(反クォークの名前にはバー(棒)を付けます。)
グルーオンのグルーというのは英語で「糊」(のり)の意味です。

クォーク
反クォーク
グルーオン


そしてクォークとグルーオンの相互作用を決めている法則を量子色力学といいます。
この法則によりますと、

自然界に観測される粒子は「無色」でなければならない

ことになっています。
そして電荷やスピンの足し算がつじつまがあうようにするには

バリオン

赤、青、緑の3つのクォークから出来ている

メソン

クォークと反クォークから出来ている

となっていなければなりません。例えば

陽子
中性子
正パイ中間子
負パイ中間子

のようにクォークや反クォークがグルーオンを交換して結合しています。他のハドロン族の粒子も同じです。
核力は陽子や中性子がパイ中間子などを交換することで伝わるのですが、それも元をたどればクォークとグルーオンの相互作用として理解できると考えられています。
このようなクォーク同士の相互作用を
強い相互作用といいます。そしてこの強い相互作用の理論が量子色力学なのです。

この量子色力学には電磁気的な相互作用と比べて著しく異なる性質があります。

  • 自然界で観測される粒子は無色なのですから、クォークは単独で取り出すことが出来ない、ということです。原子から電子を取り出すことは出来ましたが、陽子からuクォークを1つだけ取り出すことは出来ません。

    膨大なエネルギーを使って無理に取り出そうとすると、そのエネルギーからクォーク・反クォークのペアが作られて、それらとともにメソンやバリオンを作ってしまいます。
    エネルギーを使って無理にクォークを引き離そうとすると、グルーオンが切れたところにクォーク・反クォークペア作られ、2つのハドロンになってしまいます。


  • グルーオンが伝えるクォークとクォークの間の力は、それらの距離が離れても弱くならない。

また量子色力学を用いれば陽子や中性子の質量も計算で求めることが出来ます。
この計算には非常に高速な計算機が必要なため、物理屋さんが計算機屋さんと協力して世界で最も速い並列計算機の開発もされています。

クォークは初めはu, d, sの3種類だったのですが、その後高エネルギー実験でより質量の大きな粒子が作られるようになり、さらに3種類の重たいクォークが見つかっています。これらのそれぞれは「色」を持っています。

質量

質量

質量
電荷
u(アップ)
5 MeV
c(チャーム)
1.3 GeV
t(トップ)
175 GeV
+2/3
d(ダウン)
9 MeV
s(ストレンジ)
170 MeV
b(ボトム)
4.4 GeV
-1/3

ここでの質量の単位 GeVギガ電子ボルトで、1 GeVは1 MeVの1000倍です。
最も重いトップ・クォークは以前からその存在は予言されていて、1994年に見つかりました。
この表のように必ず、電荷が+2/3のクォークと-1/3のクォークがペアになっています。

そして現在までこれらのクォークが「より小さな何か」で出来ているという証拠は見つかっていません。

では、これまで出てきた粒子とその間の相互作用をまとめましょう。