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初期宇宙論と素粒子物理学に基づいた宇宙のバリオン数の解説を、オンライン公開講座で紹介しています。


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  上記のデータベースにあるトラペンの大部分はLaTeXを使って作りました。LaTeXの設定やプレゼン資料の作成法を紹介します。特にMacOS上のアプリケーションの設定関しても解説しています。


宇宙のバリオン数について

(1996年の佐賀大学理工学部物理学科Newton祭パンフレットから抜粋)

私達の住んでいる太陽系は大きな渦巻き状の銀河の一部にあり、また銀河が 沢山集まって銀河団という集合体を作っていることが観測から分かっています。 地球しか見ていないとピンと来ないのですが、この宇宙の大部分は何もない 空間で、宇宙の中の目に見える物質の殆どが銀河や銀河団に集中しています。 ところが第2次大戦後、宇宙空間には何も無いのではなく弱いながらも一様な電磁波 (Planck分布にすると絶対3度程度)で満たされていることが発見されました。 この事実と宇宙が膨張しているという事実、このことは一般相対性理論の Einstein方程式が予言することの1つですが、これらを組み合わせると、 宇宙は大昔(約100億年前)には非常に高温・高密度であったと推測され、 水素やヘリウムなどの軽い元素の存在比率も予言できる理論として ビッグ・バン理論が提唱されました。 ビッグ・バン直後は物質やエネルギーの存在形態が私達が日常観測するもの とは異なり、力を媒介する光子(photon)や陽子・中性子を作っているクォークや、 電子やミュー中間子などのレプトンといった素粒子の集まりで、それらの間の 力学法則はゲージ場の量子論です。 ビッグ・バンから時刻を数えると10-12秒(そのときの温度は約 1015K)までは電弱理論とQCDで記述され、 10-6秒(1013K)で クォークが集まって陽子・中性子を作り、1秒(1010K)で水素や ヘリウムといった軽元素の原子核が形成されました。 でも、まだ電子と原子核がバラバラに動いているプラズマ状態です。 1012秒(104K)くらいから電子が原子核に捕まり、ようやく光子が 自由に飛び回れるようになって、それが断熱膨脹して冷えたものが 現在の3Kの宇宙背景輻射です。 その後、1016秒(10K)くらいから銀河形成が 始まり現在に至っています。

一方、電磁相互作用の場の理論によると光子から物質と反物質が同じ量だけ 対生成されることが分かっていますが、私達の周りを見ても分かるように 反物質は殆どありません。 もしあったとしたら、物質と対消滅し高エネルギーの ガンマ線を出すでしょう。宇宙に目を向けても反物質が多量にあるという 証拠はありません。そして、ビッグ・バン理論の枠組みで現在の銀河を 作るには、100億個の光子に対して核子(陽子又は中性子)が1個だけ あればいいのです。宇宙が冷えていく 過程で殆どの反核子は核子と対消滅したのですが、その前にこの僅かな 量だけ核子の方が余計にあれば現在の私達の宇宙の姿が結果として実現され ます。もしそうでなければ宇宙の姿は今とは違ったものになり私達も 存在しなかったでしょう。

前置きが長くなりましたが、今私がやっている研究の一つはこの僅かな 核子・反核子(或いは物質・反物質)の非対称性を対称な宇宙から 出発し、実験的に検証可能な電弱理論だけを使って説明しようとするものです。 このためには、理論が核子数(=核子の個数−反核子の個数)を変えるような 過程を含まなければなりませんが、この過程が頻繁に起こると様々な元素 を作っている陽子が放っておくとより軽い粒子(陽電子や中間子)に崩壊して しまい安定な物質(私達の体も)が存在しないことになります。 ところが電弱理論は、冷え切った現在の宇宙では核子数が変わる過程は 殆ど起こらないが、高温(1015K程度)では頻繁に起こるという 非常に都合のいい性質を持っていることが最近の研究で分かりました。 但し、これだけでは不十分で理論が粒子と反粒子の入れ替えに対する 対称性をほんの少しだけ破っていたり(核子・反核子の生成率に差を 付けるため)、核子数が変化するときに非平衡 状態でないといけない(平衡だと対生成と消滅が釣り合うから)という 条件を満たさなくてはなりません。 私はこれらの条件が実験で検証された理論の枠組みで満たされているのか、 或いは十分な宇宙の物質を作るのには理論はどのような性質を満たさねば ならないかを研究しています。


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